高配当投資家にとって2023年現在、目を疑うような大企業が配当利回り上位に並んでいます。
2023年1月29日時点の配当利回り上位をみると以下の通り海運株が上位に集中しています。
1位:商船三井(17.37%)
2位:日本郵船(16.77%)
3位:ユナイテッド海運(8.93%)
4位:乾汽船(8.80%)
6位:川崎汽船(7.49%)
そして、これらの銘柄は株価も2021年から2022年にかけて軒並み急上昇しています。
川崎汽船は一時2019年の底から10倍を達成しています。
青:日本郵船
赤:商船三井
緑:ユナイテッド海運
黄:乾汽船
紫:川崎汽船
ここまで海運株全体が調子がよいということは海運株全体に追い風が吹いていたことが容易に想像がつきます。
本日は以下の点に要点を絞ってお伝えしていきたいと思います。
✔︎海運株がなぜ上昇したのか?
✔︎配当利回りが高いのは何故か?
✔︎今後の見通しと現在投資する価値があるのか?
海運株全体の株価が上昇している要因はシンプルに業績が良いから
株価というのは「EPS×PER」で簡単に算出することができます。
PERというのは、その時の金利水準や人々の投機熱によって上下するので企業が操ることはできません。
しかし、EPSは1株あたり純利益なので企業が純利益を上昇させれば引き上げることができます。
以下は各社の純利益の推移です。日本郵船、商船三井、川崎汽船と乾汽船、NSユナイテッドは規模が違うので別のグラフにしています。
日本郵船 | 商船三井 | 川崎汽船 | 乾汽船 | ユナイテッド海運 | |
Mar-07 | 65,037 | 120,940 | 51,514 | 1,383 | 8,857 |
Mar-08 | 114,139 | 190,321 | 83,011 | 807 | 16,074 |
Mar-09 | 56,151 | 126,987 | 32,420 | 179 | 6,689 |
Mar-10 | -17,447 | 12,722 | -68,721 | -22 | 1,215 |
Mar-11 | 78,535 | 58,277 | 30,603 | -61 | 3,236 |
Mar-12 | -72,820 | -26,009 | -41,351 | 395 | -914 |
Mar-13 | 18,896 | -178,846 | 10,669 | 286 | -15,505 |
Mar-14 | 33,049 | 57,393 | 16,642 | 156 | 10,778 |
Mar-15 | 47,591 | 42,356 | 26,818 | 9,246 | 8,626 |
Mar-16 | 18,238 | -170,447 | -51,499 | -14,234 | 4,110 |
Mar-17 | -265,744 | 5,257 | -139,478 | -880 | 3,322 |
Mar-18 | 20,167 | -47,380 | 10,384 | 1,820 | 6,613 |
Mar-19 | -44,501 | 26,875 | -111,188 | 639 | 9,343 |
Mar-20 | 31,129 | 32,623 | 5,269 | 80 | 5,947 |
Mar-21 | 139,228 | 90,052 | 108,695 | -1,186 | 6,131 |
Mar-22 | 1,009,105 | 708,819 | 642,424 | 11,848 | 23,582 |
Mar-23 | 1,030,000 | 790,000 | 700,000 | 9,303 | 26,000 |
純利益が上昇しているので当然、1株あたりEPSも増加しています。結果として株価は上昇しているというわけですね。
ただ、一方PERは下がり続けています。以下は日本郵船のPERの推移です。
つまり、EPSの上昇に比して株価が上昇していないということになります。
これは後でお伝えしますが現在のEPSを維持することが不可能であると投資家が考えていることを意味しています。
海運株は市況で動く!業績の急上昇はコンテナ船市況の急騰が理由
海運株の業績が上昇した理由は以下の一枚の図で説明がつきます。
以下はコンテナ船の運賃市況の推移です。
コンテナ船の市況は2020年から急騰したあとに2021年後半から暴落しています。
パンデミック後、以下の要因によって海運市況は急騰しました。
- 労働市場の逼迫
- 生産ラインの停滞によるコンテナ不足
- パンデミックによる港湾の混乱
- パンデミックからの回復期の需要の急増
しかし、2022年にはいってからは最初の3つが回復し、更に4つ目も徐々に不況の足音が聞こえてきており市況が急落しているのです。
現在はまだ次の項目でお伝えする配当金によって株価がささえられている状況になっています。
稼いだ利益を潤沢に配当金に拠出
海運企業は以下の通り2022年3月期から配当金を急激に増額しています。株価の上昇率よりも高いので配当利回りが急激に上昇しているのです。
日本郵船 | 商船三井 | 川崎汽船 | 乾汽船 | NSユナイテッド海運 | |
Mar-13 | 13.33 円 | 0.00 円 | 8.33 円 | 18.00 円 | 0.00 円 |
Mar-14 | 16.67 円 | 16.67 円 | 15.00 円 | 18.00 円 | 90.00 円 |
Mar-15 | 23.33 円 | 23.33 円 | 28.33 円 | 18.00 円 | 90.00 円 |
Mar-16 | 20.00 円 | 16.67 円 | 16.67 円 | 18.00 円 | 40.00 円 |
Mar-17 | 0.00 円 | 6.67 円 | 0.00 円 | 18.00 円 | 40.00 円 |
Mar-18 | 10.00 円 | 6.67 円 | 0.00 円 | 24.00 円 | 85.00 円 |
Mar-19 | 6.67 円 | 15.00 円 | 0.00 円 | 7.72 円 | 115.00 円 |
Mar-20 | 13.33 円 | 21.67 円 | 0.00 円 | 6.00 円 | 80.00 円 |
Mar-21 | 66.67 円 | 50.00 円 | 0.00 円 | 6.00 円 | 80.00 円 |
Mar-22 | 483.33 円 | 400.00 円 | 200.00 円 | 224.00 円 | 285.00 円 |
2023/03(予) | 510.00 円 | 550.00 円 | 200.00 円 | 173.00 円 | 340.00 円 |
各社営業CFに対して6割〜7割程度を配当金として拠出しているので事業利益が減退すると、現在の配当金の水準は厳しくなります。
例えば直近の2023年3月期の第二四半期の日本郵船の例でみると以下の通りとなります。
営業CF:2954億円
投資CF:▲1424億円
財務CF:▲2608億円(内配当金2119億円)
つまり事業活動で得た利益の7割程度を配当金として拠出しているのです。
半年間の純利益7060億円に対して営業CFが2954億円と小さくなっているのは持分法利益を純利益に取り組んでいるためです。
日本郵船と商船三井と川崎汽船が共同で出資している会社の利益を持分に応じて純利益に取り組んでいるだけでキャッシュインはしていないということなのです。
そのため、少しでも業績が悪くなれば配当金を拠出することができなくなります。
海運株の今後の見通しは暗い?急落すると考える理由を解説!
海運株の今後の見通しは誰の目からみても芳しくありません。理由は既にコンテナ船の市況が暴落しているからです。
先ほどの図をもう一度ご覧ください。中国向けに関しては既に2020年以前の水準に戻ってきています。
現在、高い市況の時に契約した分が収益に貢献しています。しかし、市況が低くなったあとに契約した分が収益の大半をしめるようになると利益は2020年以前の状態に逆戻りします。
今後株価は急落するのは確定的なのですが、現在耐えている理由は配当金がまだ高い状態で設定されているからです。
ただ、配当金も2023年3月末分の権利が確定したら株価は大きく下落していくことが見込まれます。
今から期末の半年分の8%分の配当利回りを目的として投資をするのも危険です。
2023年3月末までに株価が8%以上下落したら配当金を加味してもマイナスリターンとなりますからね。
2023年に入った現段階から海運株を購入することは合理的な選択肢とはいえないでしょう。
もし入るとしても空売りをするポイントを探る方が懸命でしょう。
まとめ
今回のまとめは以下となります。
✔︎海運株が上昇したのは海運市況の急騰を背景として純利益が急上昇したから
✔︎配当金の上昇が株価よりも急激であるため配当利回りが高くなっている
✔︎海運市況は既に暴落しており株価も配当金も現在の水準を維持するのは不可能