バリュー株投資はベンジャミン・グレアムによって開発されてからグロース株投資とならんで投資の二大手法となります。
名前から分かる通り、日本語では割安株投資とも言われています。
お買い得な商品を買うように、お買い得な株を購入して株価が妥当なレベルに見直される過程で利益を得ようという手法です。
現在、バリュー株投資といえば一般的にPERやPBRを用いたものが主流となります。
本日はバリュー株投資は何に重点を置いているかを説明した上で、
低PER投資や低PBR投資の概要と問題点についてお伝えしていきます。
その上でグレアム以来の伝統的で尚且つ本格的なバリュー株投資についてお伝えしていきたいと思います。
バリュー株は「今」の状態を重視する投資手法!
バリュー株投資は今の株価の状態が安いかどうかを判断する投資手法です。
将来の利益の成長を加味するのではなく、今の企業が保有している資産や利益から割安さを考えます。
一方のグロース株投資は将来の利益を加味した上で割安かどうかを判断します。
本来のバリュー株投資は産みの父であるベンジャミン・グレアムの手法です。
しかし、現在多くのバリュー株投資家の間で用いられているのはPBRやPERといった指標を元にした投資です。
まずは、PBRやPERを用いたバリュー株投資の概要と注意点についてお伝えしていきたいと思います。
PBRから判断する割安度とは?
まずはPBRから判断するバリュー株投資についてです。
PBRとはPrice Book Value Ratioの略で株価純資産倍率と呼ばれます。
つまり時価総額が純資産の何倍かということを示す指標ですね。
時価総額というのは「発行済株式数×株価」で表され、会社をまるごと購入するのにいくら掛かるのかという指標です。
式で表すと以下となります。
PBR
=
時価総額 ÷ 純資産
PBRをわかりやすく図で表すと以下となります。
PBRが1倍未満というのは、純資産よりも低い金額で会社を購入することができることを意味します。
理論的な株価というのは以下の式で算出することが可能です。
理論株価
=
(①純資産 + ②将来利益の割引現在価値)
➗
発行済株式数
PBRでは将来利益を全く加味せずに純資産だけで時価総額と比較します。この時点で非常に保守的です。
つまり、「今保有しているもの」と「購入価格」を単純に比べているわけですので、PBRが1倍以下であれば目に見えて割安ということになりますね。
100億円の純資産を保有する企業を80億円で購入することができるわけですから。
PBRが1未満だから魅力的とは限らない
ではPBRが1未満の場合は魅力的な株価であると断言することができるのでしょうか?
ことはそれほど簡単ではありません。そもそも、PBR1未満が魅力的ならば誰もが購入して株価が上昇してPBRが1以上に上昇します。
PBRが1未満に放置されているのには理由があるのです。
1つ目には今後赤字が発生して、純資産が減少していくことが想定されていくと投資家が考えている場合です。
肝心の純資産が減少してしまえば、将来のPBRは高くなります。
株価は将来を見据えた上で動いていくので、今後の経営成績に不安がある場合はPBRは低い水準となってしまいます。
2つ目としては、そもそも資産に本当に帳簿上の価値があるのかという点です。
一言に資産といっても様々なものがあります。会社を買収した時に発生する「のれん」や陳腐化した設備など本当に価値があるか怪しいものがあります。
PBRが1倍未満の銘柄には、低い理由がある可能性があります。しっかりと見極めないといけません。
PBRが低い理由が注目度が低いという理由であるならば十分に勝機があるといえます。
PERから判断する割安度とは?
PERはPrice Earning Ratioの略で株価収益率と呼ばれています。つまり、PERは株価が利益の何倍なのかという指標です。
例えば利益が100億円で時価総額が1000億円であればPERは10倍となります。
支払った元本を利益の何年分で回収できるかという指標となります。式にすると以下となります。
PER
=
時価総額 ÷ 純利益
図にすると以下となります。
因みに直近の利益を使用するのが実績PERで、今期末の利益を使うのが予想PERです。
先ほどもお伝えしたとおり、株価は未来を反映するので予想PERを使うのが一般的です。
一般的にはPERが15倍以下がどうかが割安かどうかの基準とされていますが、この考えだけを信じるのは非常に危険です。
PERは15倍が基準と申し上げましたが、市場環境や業種によって全く水準が違います。
株価が上昇そうばで株価指数の平均PER自体が上昇する場合は20倍が基準となることも容認されます。
また、PERは業種によって大きく異なります。
伝統的な製造業や不動産や商社といった業界は比較的低いPER水準となる一方、
成長著しいハイテク産業などでは高いPER水準となる傾向にあります。
その銘柄や業界平均の過去のPERの平均がどの程度であるかを参考に現在の割安度を判断する必要があります。
コラム:業種別のPER平均
2020年12月末の全業種の平均PERは以下となっております。
2020年はコロナショックから株価が急騰したこともあり全業種のPERは例年より高い水準になっています。
業種 | 平均PER |
全業種平均 | 22.6 |
鉱業 | 7.7 |
建設業 | 9.3 |
銀行業 | 10 |
海運業 | 10.4 |
その他金融業 | 11.2 |
ゴム製品 | 12 |
不動産業 | 12.4 |
パルプ・紙 | 13.4 |
空運業 | 13.5 |
ガラス・土石製品 | 13.8 |
倉庫・運輸関連 | 13.9 |
卸売業 | 14.2 |
保険業 | 14.4 |
電気・ガス業 | 14.9 |
陸運業 | 15.3 |
金属製品 | 16.5 |
水産・農林業 | 17.4 |
証券、商品先物取引業 | 18.1 |
医薬品 | 20.3 |
化学 | 22.5 |
食料品 | 23.5 |
その他製品 | 24 |
鉄鋼 | 25.9 |
機械 | 26.3 |
精密機器 | 29.7 |
繊維製品 | 31.3 |
サービス業 | 32.4 |
情報・通信業 | 33.1 |
小売業 | 36.3 |
電気機器 | 39.4 |
非鉄金属 | 73 |
輸送用機器 | 112.1 |
最新版は常に「日本取引所グループ(その他統計資料)」で確認できますので参考にしてみてください。
PERが低いから投資すると安易に考えるのは危険
PERが低い水準にあるからという理由だけで安易に考えるのは危険です。
PERが低い場合は、低い理由がある可能性があります。
一番大きな理由は今後の利益の見通しが悪くなると投資家が見ている可能性があります。
例えば現在の1株あたり純利益であるEPSが100円の時に株価が1000円であればPERは10倍となります。
しかし、一年後EPSが50円まで下落してしまったらPERは20倍に急騰します。
EPS | 株価 | PER |
100円(現在) | 1000円 | 10倍 |
50円(1年後) | 1000円 | 20倍 |
株価が変わらなかったとしても、利益が低下したらPERは上昇するのです。
なぜ、PERが低くなっているのかという原因を考えて投資をする必要があるのです。
ベンジャミン・グレアム以来の本格的なバリュー株投資とは?
今まで紹介した低PER、低PBR投資はあくまで簡易的なバリュー株投資です。
上記でお伝えした通り、それぞれには欠点があり一筋縄ではいきません。
しかし、ベンジャミン・グレアムが開発したネットネット株はバリュー株投資の中でも一線を画します。
→ ネットネット株への投資だけではない!マルチストラテジー型ヘッジファンド「BMキャピタル」の運用手法とは?
ベンジャミン・グレアムはバランスシートを更に精査して投資基準を考えます。
そもそも利益を元に考えると将来の予測を立てないといけません。そもそも、将来の利益がどうなるかということを予測するのは難しいです。
またPBRを元にして考えたとしてもバランスシートの中に不確かな要素があります。
そこで資産の中身を確かな現金性資産と、不透明性がある事業性資産に分けて考えます。
現金性資産は現金に換金する可能性が高い資産です。一方、事業性資産は商品や設備や「のれん」といった事業に使用する資産です。
【現金性資産】
現金
営業債券(売掛金、受取手形)
有価証券
【事業性資産】
商品
建物
設備
土地
のれん
等々
この現金性資産から総負債を差し引いて残った正味現金性資産だけで時価総額を上回る銘柄を投資対象とします。
図で示すと以下となります。
このような銘柄は既に保有している確かな資産だけで時価総額よりも高いことになります。
誰の目にも明らかに割安な銘柄ということになるのです。
グレアム流バリュー株投資の欠点と解決法
ではグレアム流のバリュー株投資い欠点はあるのでしょうか?
また、欠点がある場合はどのように解決することができるのでしょうか?
欠点は注目されずに割安に放置されること
先ほど紹介した基準を満たす銘柄は圧倒的に割安に放置されている銘柄となります。
では何故、割安に放置されているのでしょうか?
その理由は単純で、誰も注目をしていないからです。
米国の上場企業数は5000社程度ですが、GDPが3分の1に満たないにも関わらず上場企業数は3500社もあるのです。
そのため、アナリストの目が行き届かず、通常ではあり得ないレベルで放置されてしまっている銘柄があるのです。
特に地方証券取引所や東証二部の超小型銘柄に存在しています。
欠点は今後もずっと注目を得られずに割安に放置される可能性があるということです。
大規模な資金を投じて能動的に株価を引き上げる
注目が当たらないなら、注目させればいいだけです。
豊臣秀吉の「泣かぬなら泣かせてみせようホトトギス」という言葉が思い起こされますね。
具体的にはファンドという形で、ネットネット株に投資を行い大量に株式を保有します。
大株主となったところで「物言う株主」として経営陣に株価を引き上げる施策を提言して実現させます。
具体的には以下のようなものがあります。
- コスト見直しによる利益率の改善
- 新規事業策定による収益力の強化
- 自社株買によるEPSの増加
- 増配を促す
これらにより経営を改善させたり、自社株買などをプレスリリースすることにより市場の注目を集めさせます。
すると、適切な株価にまで上昇することで利益を得ることができるのです。
とはいっても十分な資金を一人で投資することは困難です。
そこで、ネットネット株に投資をして「物言う株主」として活躍しているファンドに投資をするという選択肢が合理的となります。
実際の筆者もこのようなファンドに投資をして下落を免れながら安定的に年率10%程度のリターンをあげています。
以下でネットネット株投資を最大限活用してリターンを上げているBMキャピタルについてまとめていますので参考にしていただければと思います。
まとめ
今回のポイントを纏めると以下となります。
【バリュー株投資とは】
- 現在の状態から株価の割安度を判断して投資する手法
- 低PER、低PBR投資と伝統的なバリュー株投資がある
【低PBR投資】
- 時価総額が純資産の何倍かという指標
- 1倍以下は割安だが1倍以下となっている理由を考えることが肝要
- 今後の事業見通しが暗かったり、資産が確かなものでない場合はPBRが1倍以下となることがある
【低PER投資】
- 時価総額が利益の何倍かという指標
- 直近の純利益を用いる実績PERと今期末の利益を用いる予想PERがある
- 相場環境や業種によってPER水準を異なる
- PERが低い場合、将来の利益が低下することを投資家が見込んでいる可能性があるから要注意
【本格的バリュー株投資】
- 将来の利益を予想するのは困難だから利益は用いない
- バランスシートの中の確実性の高いものだけを用いて割安度を考える
- 正味現金性資産だけで時価総額を超える銘柄をネットネット株として投資対象とする
- 欠点は割安のまま放置されること
- ファンドという大きな器を使って能動的に株価を引き上げることで弱点を克服可能