前回、日本銀行の金融政策が政策目標を2%のインフレ率に設定している理由について、詳しく説明していまいりました。
日本銀行が金融政策で2%のインフレ率(物価上昇率)を目標(ターゲット)としている理由とは?わかりやすく解説!
この記事では、日銀が自ら設定する2%のインフレ目標に向かって、現在どのような金融政策を実施しているのかという点について、出来るだけわかりやすく説明していきたいと思います。
何故日本は非伝統的金融政策を行っているのか?
現在日銀が行っている「長短金利操作付き量的質的金融緩和」は、名前から分かる通り、どうみても普通の金融政策ではないです。
大きな括りでいうと非伝統的金融政策という分類にカテゴライズさせることが出来ます。
非伝統的金融政策を見る前に、まずは軽く伝統的な金融政策について説明しますと、
伝統的金融政策は非常にシンプルで金利を操作することによって、景気を浮揚させたり、加熱した景気を鎮静化させる金融政策のことを言います。
何故金利を下げると景気が浮揚するかというと、最も身近な話だと住宅ローンがあります。
金利3%だとローンを組むのがためらわれますが、0.5%なら組んでもいいかな、と思う人が増えて不動産が低金利下では売れますよね。
大きな話になりますと、起業も金利が低くなると銀行からお金を低金利で、借りることができます。
積極的に設備投資を行い生産活動が活発になりますし、設備を発注した会社の利益も膨らみます。
結果的に低金利にすることで消費や投資の拡大が起こり経済成長が促進されます。
金利を高くすると先ほど上記で述べた現象の逆流が起こるわけですね。
じゃあなぜ日銀は伝統的金融政策を行っていないのか? という点なのですが、話は非常に単純です。
もう金利が0%であり、下げることができないことが原因となっています。
つまり伝統的な金融政策を行わないのではなくて、既に行えない状況となっているのです。
日本以外には米国、欧州が先駆けて非伝統的金融政策を行っています。
現在米国は金利政策に回帰できる水準まで金利を引き上げていますが、欧州も依然として日本と同じ状況です。
量的・質的金融緩和(QQE-Quantitative-Qualitative Ease)とは?黒田バズーカに迫る
現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の核となる、量的・質的緩和とはそもそも何なのか?
ということを説明していきたいと思います。
2013年3月に黒田日銀総裁が誕生して以来一貫して行っている政策です。
先程、通常の金融緩和が金利を操作して経済をコントロールすると説明しました。
金融当局が操作できるのは翌日物等の超短期金利のみで、中長期金利を操作することは出来ません。
短期金利が下げれる限界まで来ているのであれば、
長期金利を低く抑えて、景気を浮揚させる
ことを目的としに発案されたのが、量的緩和です。
量的緩和には別の効果もあり(こちらが主かもしれませんが)、金利を低く抑える為に、市中の銀行から中長期の国債を買い漁ります。
日銀が国債を買い漁る結果、国債金利が下落すると同時に、銀行に日銀が国債を購入した代金と引き換えに発行した日本円が供給されます。
市中銀行に供給された日本円を銀行が企業や個人に貸し出すことにより、資金が経済を循環して日本経済が勢いづくという効果も狙っています。
難しい言葉でいうと、マネーサプライの増加という言葉になります。
量的緩和は実は日本でも2001年から2006年に、米国でも2008年から2014年にかけて断続的に行った政策で前例は既にありました。
質的金融緩和というのは、これまでの量的緩和は主に国債を購入対象としていました。
満期の長い長期国債や、ETF、さらにJ-REITなどのリスク性の資産も買入対象にしました。
因みに以下2018年7月に発表された最新の買入方針です。
長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。
[1]ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。
[2]CP等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
(引用:日銀の金融緩和方針)
ETF買入が日経平均を常に下支えしているのは言を待ちませんが、
要するに、日本の株や債券、不動産といった資産を日銀が大量に買って、市中に円を供給するから、ばんばん使って経済を成長させてね!!
という政策であるということが出来ます。
リーマンショック後一早く量的緩和は欧州ECBと米FRBで行われておりました。
乗り遅れていたとはいえ、経済規模に対してあまりに大規模な金融緩和だった為、黒田バズーカと表現されていたのです。
実際以下ご覧頂きたいのですが、米中銀FRBより日銀BOJの資産購入総額の方が、既に大きくなっていることが分かります。
経済規模が3分の1なのに正直やりすぎ感はありますよね。
「長短金利操作付き(=イールドカーブコンロトロール)」の短期金利に迫るー結局マイナス金利政策ってどういうこと??
では世界でも日銀特融の長短金利操作付きの短期金利について説明します。
まず日銀の記述を確認します。
長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
- 短期金利:
- 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
- 長期金利:
- 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし1 、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。
短期金利を▲0.1%とおいていますが、マイナス金利って結局なんなのさ、と思われている方も多いと思います。
まずマイナス金利を実施する対象なのですが、我々国民の預金ではなく、市中銀行に対してマイナス金利を付与しています。
日銀は銀行の銀行と言われており、日銀が貸し出しているのは我々国民ではなく、市中の銀行なのです。
市中の銀行は貸し出しできない分の保有している日本円を、日銀の預金口座にいれることにより日銀から利息を受け取っていたのです。
しかし日銀の立場になって考えて下さい。
折角市中に日本円をばらまく為に市中の銀行から国債を買い取り、引き換えに市中銀行に日本円を渡すのに、
市中銀行が市場に貸し出しを行わず、日銀の口座に貯めていたら、全く金融緩和の意味がないですよね。
その為、ある一定額を超えた日銀への預金に対しては、懲罰的な意味も込めてマイナス金利を付加しているのです。
つまり、市中銀行にちゃんと融資先や投資先を見つけて、お金を市中に流入させなさいよ!
というメッセージが込められているのです。
以下日銀が実施しているマイナス金利の図解です。
繰り返しますが、誤解してほしくないのは、
国民の預金を対象にしたものではなく、市中銀行の日銀預金の一部に対して課されるものなのです。
「長短金利操作付き(=イールドカーブコンロトロール)」の長期金利操作に迫る
まずイールドカーブについて説明していきます。
日本語にすると「利回り曲線」なのですが、横軸に国債年限、縦軸に利回りをプロットしたものです。
現在の日銀のイールドカーブコントロールでは10年もの国債金利を0%に固定するように、
金利コントロールを行っています。
何故イールドカーブコントロール政策を行っているのかという意義なのですが、日銀は国債の買い入れ金額を年間80兆円を目途に行っていました。
しかし、年間80兆円のペースで買い取っていては市中の銀行が保有している国債を数年のうちに、その国債を買切ってしまいます。
それでは金融緩和を継続できません。
そのため、買入金額を少なくする為に、10年金利0近傍という目標を打ち出したと、各種金融機関では分析されています。
所謂ステルステーパリングというやつです。
量的・質的金融緩和を継続させていくための施策として導入されたのが、イールドカーブコントロールなのです。
オーバーシュート型コミットメントとは??
オーバーシュート型コミットメントとは、今後日銀が目標としている2%のインフレ目標を達成するまでは、金融緩和を続けるというコミットメントです。
なんで、コミットメントをするのかというと、日銀が意思をもってやり遂げると言っているのだから、インフレは2%に達するのだ。
だからお金の価値がインフレで下がらない内に、確りとお金を使っておこうと思わせ、経済を浮揚させることにあります。
要は未来のビジョンを確約して、人々や企業に消費に向かわせようとしているのです。
結局インフレは起こってないけど何故?いつ起こるの?
結局日銀頑張ってるらしいけどインフレおこってないよね。
と思われた方も多いのではないでしょうか。
理由はいくつかあると思うのですが、考えられる理由は三つあると思います。
一つはそもそも税引後の可処分所得が減少傾向です。
手元に入ってくるお金が減っているのに何故消費活動が活発になるのでしょうか。
金融政策よりもインフレを起こすには賃上げが絶対に必要になってきますが、企業業績は好調なのに一向に本格的な賃上げが起こりません。
ベースアップが行われないことが一番の主因であり、安倍首相も積極的に毎年企業に賃上げを要請しているのです。
二つ目は少子高齢化で人口減少しているので、全体としての需要が減少していることです。
価格があがる(=インフレ)が発生するには需要が起こる必要がありますが、国全体の人口がへり可処分所得も減っていてはインフレが起こるわけがありませんね。
三つ目はデフレマインドの定着です。
日本はバブル崩壊以降モノの価格が下がるデフレ経済が30年近くつづき、もはやデフレが普通という状態に慣れてしまったのです。
デフレマインドが定着している状況下、日銀が2%のインフレが発生します。
といくら声たからかに宣言したとしても、そんなわけあるか!と誰もインフレ発生を信じることが出来ず、
インフレが起こる前に消費しておこうという意欲が起こらないのです。
結果的に日本では現在でも1%に届かないレベルでのインフレに留まっています。
それでは、デフレが続いていたのを何とか、正の値まで持ってきたのは日銀の功績といえるでしょう。