投資家目線でETFを組成していることで有名なバンガード社のETFについては、今まで新興国市場に投資をするVWOと米国株式市場全体に投資を行うVTI・VOO、全世界に投資をするVTについて分析してきました。
今回はVTIと似ていることで話題のVYMについてVTIと何が違うのか、利回りや分配金についてひも解いていきたいと思います。
VYMとVTIの連動するインデックスの違い
前回分析したVTIはCRSP USトータル・マーケット・インデックスという、超小型・小型株を含めた4000銘柄近くに及ぶほぼ全ての米国の株式市場に上場されている銘柄に連動するETFです。
【VTI】米国株長期保有ならバンガードETF!評判の良い海外ETFを徹底分析 構成銘柄/利回り/配当(分配金)/見通し/買い方/S&P500・NASDAQ指数と比較
一方、今回取り上げるVYMはFTSE ハイディビデンド・イールド・インデックスに連動するETFです。
High Dividend Yieldの名前の通り、米国の高配当銘柄約400銘柄で構成されています。
銘柄数からもわかる通り、大型高配当銘柄株を中心に構成されています。
VYMとVTIの産業別構成比率と構成上位銘柄の違い
VYMは高配当銘柄中心ということでVTIとは構成銘柄が以下の比較表のように違ってきます。
セクター | VYM | ベンチマーク | バンガードETFとベンチマークの差 |
金融 | 18.70% | 18.80% | -0.10% |
ヘルスケア | 15.00% | 15.00% | 0.00% |
消費財 | 14.00% | 14.00% | 0.00% |
テクノロジー | 10.40% | 10.20% | 0.20% |
資本財 | 10.30% | 10.30% | 0.00% |
公益 | 8.70% | 8.70% | 0.00% |
消費サービス | 8.50% | 8.50% | 0.00% |
石油・ガス | 5.90% | 5.90% | 0.00% |
電気通信 | 4.60% | 4.70% | -0.10% |
素材 | 3.90% | 3.90% | 0.00% |
セクター | VTI | ベンチマーク | バンガードETFとベンチマークの差 |
テクノロジー | 27.80% | 27.80% | 0.00% |
金融 | 15.50% | 15.50% | 0.00% |
消費サービス | 14.70% | 14.70% | 0.00% |
ヘルスケア | 13.40% | 13.40% | 0.00% |
資本財 | 11.70% | 11.80% | -0.10% |
消費財 | 8.30% | 8.30% | 0.00% |
公益 | 2.70% | 2.70% | 0.00% |
石油・ガス | 2.20% | 2.20% | 0.00% |
素材 | 2.00% | 2.00% | 0.00% |
電気通信 | 1.70% | 1.60% | 0.10% |
一番大きな違いはテクノロジーの比率の違いです。
テクノロジーは稼いだお金を次の技術革新に回す企業が多いので、高配当銘柄の割合が少なくなります。
一方、石油・ガスのような現金がわんさか入ってくるような業界では配当性向が高い傾向が大きく比率が高くなります。
構成上位銘柄もVTIとは大きな違いを確認することが出来ます。
VTIは巨大IT企業が上位を独占しております。
VYMはVTIの上位銘柄Apple、Microsoft、Amazon、Alphabet、Facebookが入っていません。
<VYM>
保有銘柄 | シンボル | ファンド構成比 | 市場価格 | シェア |
Johnson & Johnson | JNJ | 3.98% | $1,401,047,507 | 9,132,700 |
Procter & Gamble Co. | PG | 3.32% | $1,167,580,728 | 8,440,546 |
JPMorgan Chase & Co. | JPM | 2.99% | $1,051,304,691 | 10,493,110 |
Verizon Communications Inc. | VZ | 2.42% | $850,764,425 | 14,354,048 |
Intel Corp. | INTC | 2.13% | $748,163,455 | 14,684,268 |
Merck & Co. Inc. | MRK | 2.12% | $746,240,576 | 8,751,502 |
AT&T Inc. | T | 2.09% | $736,187,849 | 24,696,003 |
Pfizer Inc. | PFE | 2.07% | $728,020,344 | 19,264,894 |
Comcast Corp. Class A | CMCSA | 2.00% | $703,204,271 | 15,693,021 |
Bank of America Corp. | BAC | 1.96% | $689,704,973 | 26,795,065 |
<VTI>
保有銘柄 | シンボル | ファンド構成比 | 市場価格 | シェア |
Apple Inc. | AAPL | 5.82% | $56,741,966,120 | 439,723,854 |
Microsoft Corp. | MSFT | 4.95% | $48,191,822,344 | 213,682,536 |
Amazon.com Inc. | AMZN | 4.23% | $41,224,112,166 | 11,945,694 |
Facebook Inc. Class A | FB | 2.04% | $19,864,948,265 | 67,752,211 |
Alphabet Inc. Class A | GOOGL | 1.42% | $13,789,819,408 | 8,462,452 |
Alphabet Inc. Class C | GOOG | 1.35% | $13,144,610,173 | 8,043,551 |
Johnson & Johnson | JNJ | 1.17% | $11,388,640,488 | 74,236,624 |
Berkshire Hathaway Inc. Class B | BRK.B | 1.16% | $11,279,341,114 | 51,730,605 |
Tesla Inc. | TSLA | 1.07% | $10,423,708,264 | 20,917,700 |
Visa Inc. Class A | V | 1.03% | $10,032,213,064 | 47,323,992 |
代わりに金融機関であるJPモルガンやバンク・オブ・アメリカ、安定収益が見込める日本のNTTにあたるAT&Tが組み入れられています。
また銘柄数もVTIが全構成銘柄が4000銘柄なので上位10銘柄の構成比率が24.23%であるのに対して、VYMは構成銘柄が400銘柄ということもあり上位10名型の構成比率が25.07%と高いことも違いとして挙げられます。
(しかし、VTIはGAFAMに偏っていますね)
VYMとVTIのPER・PBR・ROE・利益成長率のデータの違い
VYMとVTIのデータ比較を行っていきましょう。
以下ご覧頂きたいのですが、PERやPBRといった割安指標の観点からはVYMの方が割安なETFとなっていることが示されています。
要因としてはVTIは構成銘柄・産業からも分かるとおり、巨大IT企業の比率が高く、今後の成長期待が先行して資金が入ってきているので指標上は割高な水準となってしまいます。
VYM | ベンチマーク | VTI | ベンチマーク | |
構成株式銘柄数 | 424 | 423 | 3,525 | 3,497 |
時価総額の中央値 | 130.2 B | 130.2 B | 124.3 B | 124.3 B |
収益成長率 | 7.80% | 7.80% | 14.60% | 14.60% |
株価収益率(PER) | 18.1 x | 18.1 x | 27.5 x | 27.4 x |
株価純資産倍率(PBR) | 2.1 x | 2.1 x | 3.5 x | 3.5 x |
自己資本利益率 | 18.20% | 18.00% | 17.70% | 17.70% |
非米国株式 | 0 | N/A | 0.00% | N/A |
回転率 ( 回転率 2019/10/31 現在) | 7.00% | N/A | 4.10% | N/A |
しかし収益成長率にVTI14.60%とVYM7.8%と明確な差が出てきており、一概に割安だからVYMが良いと断ずることは出来ません。
寧ろ利益の成長に株価は長期的に連動する傾向が強いことを考えると、長期的な株価の成長を見据えるのであればVTIの方が投資先としては適切でしょう。
VYMとVTIの利回り(リターン)をデータとチャートから比較
それでは肝心の利回りの比較にいきましょう。
以下がVTIとVTMの利回りの比較なのですが、過去5年でみると、有意にVYMに対してVTIのリターンが上回っていますね。
やはり巨大IT企業の躍進がかなり株価に寄与しているということがいえそうな結果となっています。
<VYM>
月末 | 3ヶ月 | 年初来 | 1年 | 3年 | 5年 | 10年 | 設定来 | |
基準価額(NAV) | 3.25% | 5.60% | -8.98% | 0.66% | 5.22% | 8.92% | 12.10% | 7.04% |
市場価格 | 3.32% | 5.55% | -8.91% | 0.74% | 5.24% | 8.93% | 12.12% | 7.05% |
ベンチマーク | 3.24% | 5.59% | -8.98% | 0.69% | 5.25% | 8.97% | 12.18% | — |
<VTI>
月末 | 3ヶ月 | 年初来 | 1年 | 3年 | 5年 | 10年 | 設定来 | |
基準価額(NAV) | 7.18% | 15.83% | 9.37% | 21.25% | 13.92% | 13.83% | 14.93% | 7.83% |
市場価格 | 7.27% | 15.78% | 9.45% | 21.39% | 13.95% | 13.84% | 14.95% | 7.84% |
ベンチマーク | 7.18% | 15.82% | 9.39% | 21.28% | 13.93% | 13.83% | 14.95% | — |
それではチャート上からもVTIとVYM更にS&P500指数の比較をしてみましょう。
【過去10年】
過去10年の比較ではほぼTotal Stock Market(VTI)はS&P500指数とほぼ同等の値動きとなっていますが、High Dividend Yield ETF(VYM)は両者に比べて特にこの2年間アンダーパフォームしています。
では詳しく、直近1年の動きを確認してみましょう。
2019年末から急速にVYMが下方乖離し始めていますね。
やはり、テクノロジー系がこの間堅調に推移したことが、テクノロジー系企業組み入れ比率が低いVYMに不利に働いているといえそうですね。
そもそも高配当ということは、他に投資をして事業を拡大することよりも、株主に配当金として拠出した方が株主利益になると考えている結果ともいえます。
先程の成長率で見た通り利益の成長率が低いことから、現在のような堅調な景気拡大期ではVTIに比べてアンダーパフォーマンスしやすいよいうことが出来そうですね。
VYMとVTIの配当金を比較する
現在のVTIの配当金は前回みてきたように以下のようになっています。
種類 | 直近の分配金実績 | 権利落ち日 | 支払基準日 | 支払開始日 |
Income | $0.70 | 2020/6/25 | 2020/6/26 | 2020/6/30 |
Income | $0.61 | 2020/3/26 | 2020/3/27 | 2020/3/31 |
Income | $0.89 | 2019/12/24 | 2019/12/26 | 2019/12/30 |
Income | $0.70 | 2019/9/16 | 2019/9/17 | 2019/9/19 |
Income | $0.55 | 2019/6/17 | 2019/6/18 | 2019/6/20 |
Income | $0.77 | 2019/3/25 | 2019/3/26 | 2019/3/28 |
Income | $0.72 | 2018/12/24 | 2018/12/26 | 2018/12/28 |
Income | $0.71 | 2018/9/28 | 2018/10/1 | 2018/10/3 |
Income | $0.60 | 2018/6/22 | 2018/6/25 | 2018/6/27 |
Income | $0.57 | 2018/3/22 | 2018/3/23 | 2018/3/27 |
現在2020年9月時点のVTIの価格は167USD近辺で推移しています。
日付 | 市場価格 ($) | 基準価額(NAV) ($) |
2020/9/25 | $167.00 | $167.02 |
2020/9/24 | $164.97 | $164.93 |
2020/9/23 | $164.56 | $164.58 |
2020/9/22 | $168.70 | $168.69 |
2020/9/21 | $167.04 | $167.03 |
2020/9/18 | $169.11 | $169.08 |
2020/9/17 | $170.73 | $170.70 |
2020/9/16 | $172.14 | $172.16 |
2020/9/15 | $172.73 | $172.74 |
2020/9/14 | $171.76 | $171.75 |
2020年3月の0.61USD、6月の0.70USDの配当と同水準で下半期も続くと、1年間で約2.6USDということになります。
つまり現時点のVTI価格166USDから考えると、1.5%程度の配当利回りということになりますね。
一方のVYMは現在の価格が79USD近辺なので、
2020年3月の0.554USD、6月の0.8368USD、9月の0.7053の配当と同水準で第四四半期も続くと、1年間で約2.8USDということになります。
現在の価格ベースでいうと3.5%の配当利回りということになります。
種類 | 直近の分配金実績 | 権利落ち日 | 支払基準日 | 支払開始日 |
---|---|---|---|---|
Income | $ 0.705300 | 2020/09/21 | 2020/09/22 | 2020/09/24 |
Income | $ 0.836800 | 2020/06/22 | 2020/06/23 | 2020/06/25 |
Income | $ 0.554400 | 2020/03/10 | 2020/03/11 | 2020/03/13 |
Income | $ 0.779100 | 2019/12/23 | 2019/12/24 | 2019/12/27 |
Income | $ 0.786400 | 2019/09/24 | 2019/09/25 | 2019/09/27 |
Income | $ 0.624700 | 2019/06/17 | 2019/06/18 | 2019/06/20 |
Income | $ 0.651600 | 2019/03/25 | 2019/03/26 | 2019/03/28 |
Income | $ 0.738800 | 2018/12/24 | 2018/12/26 | 2018/12/28 |
Income | $ 0.671800 | 2018/09/26 | 2018/09/27 | 2018/10/01 |
Income | $ 0.630200 | 2018/06/22 | 2018/06/25 | 2018/06/27 |
配当面ではVYMに軍配が上がりますが、やはり過去5年でみると、配当金を加味してもVTIの方が成績が良いよいう結果になっています。
VYMとVTIの手数料を比較する
バンガードシリーズは手数料が非常に安いことで有名ですが、
VYMが0.08%とVTIが0.03%とVYMが見た目上は2倍となっています。
最早、誤差の領域なので気にするべき結果ではないでしょう。
VYMとVTIの比較まとめ
VYMとVTIは共に米国の株式市場に投資を行うETFですが、
VTIが米国株式市場全体約4000銘柄に投資するのに対して、VYMは高配当銘柄400銘柄に投資をするという違いがあります。
産業や銘柄でみるとVTIが巨大テクノロジー企業の比率が高いが、VYMには組み入れられていないという特徴があり、VYMの方が割安ではあるが、組み入れ銘柄の利益成長率はVTIが圧倒的に高い結果となっています。