投資を行う上で、金融環境を理解しておくことは必須となります。
今回は黒田氏が平成25年3月20日に就任してから、日本銀行の金融緩和について結局のところ何を目指しているのか?
資産の運用先に何故非伝統的な金融政策に踏み切らなければいけなくなったのか?という皆さんのシンプルな疑問について出来うる限り、わかりやすく解説していきたいと思います。
次回お伝えする日銀の非伝統的金融政策の序章となります。
日銀の長短金利操作付き量的質的金融緩和をわかりやすく解説~イールドカーブコントロール?オーバーシュート型コミットメント?~
日銀は何故インフレ率2%を目標にかかげているのか??
まずは日銀が何を目標にしているのかということから確認します。
日銀の金融政策の理念は日銀のホームページで、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」と定義しています。
追って噛砕いていきますが、一応日本銀行のHPの記述をご覧下さい。
日本銀行法では、日本銀行の金融政策の理念を「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」としています。
物価の安定が大切なのは、それがあらゆる経済活動や国民経済の基盤となるからです。
市場経済においては、個人や企業はモノやサービスの価格を手がかりにして、消費や投資を行うかどうかを決めています。物価が大きく変動すると、個々の価格をシグナルとして個人や企業が判断を行うことが難しくなり、効率的な資源配分が行われなくなります。また、物価の変動は所得配分にゆがみをもたらします。
こうした点を踏まえ、日本銀行は、2013年1月に、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています
(引用:日本銀行)
はい。正直わかりにくいですよね。
それでは分解して考えていきます。
物価の安定が何故重要なのか?
「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」で、何故「物価の安定を図る」必要があるのでしょうか?
物価というのは字の通り、物の価値です。
例えばペットボトルのジュースは基本的には150円ですよね。
ペットボトルの価値が日本円で150円の価値があると市場が決定づけているのです。
では、ペットボトルの価値がある日は100円、次の日には300円、更に翌日には200円となれば国民としては困りますよね。
価格変動が全てのモノで起こったとしたら、国民や企業としては今後どのようにお金を使ったらいいか分からなくなりますよね。
今後どのように物価が変動するか分からないと国民は委縮して、消費行動をおさえるので結果的に経済が縮小してしまうのです。
人間が一番恐れるのは何が起こるか分からないという不確実性ですからね。
個人的にも、毎日150円で飲んでいるコーラが今日300円になってしまったら...買いますが、明日100円になったらうざいなぁ、という気持ちに支配されてしまいそうです。
国民経済の健全な発展に資するとはどういうことなのか?
「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」で、物価の安定が重要なことについては紐解いていきました。
後半部分の「国民経済の健全な発展に資する」とはどのような意味なのでしょうか。
皆さんでは今後インフレが発生すると分かっていたら、どのような消費行動を行いますか?
たとえば、来年、再来年、次の年とどんどんと生活費が上昇する未来が待っていたとします。
言い換えると、「モノ」に対してお金の価値が毎年下がっていくということを意味します。
つまり今保有している1万円札が来年、再来年の1万円より高いという状況ですね。
今150万円でかえる車が1年後200万円でしか買えないなら、皆さんどうしますか?
今すぐ買うという方が多いのではないでしょうか。
結果的にインフレが発生すると分かっているのであれば、消費が促進されて経済が活発になり経済成長していくのです。
何故インフレは2%を目標としているのか?
先程緩やかなインフレが結果的に経済成長を促進していくという考え方を説明しました。
では、何故インフレを2%と設定しているのでしょうか?
実のところ、ここには数理的な根拠はあまりないのです。
一早くインフレターゲットを採用していた欧米が2%を目標にしているので、平仄を合わせる意味合いも込めて2%と設定しているという側面が大きいです。
なんじゃそりゃ、という感じですよね。
日銀の金融政策の目標設定のまとめ
日銀は2%という緩やかなインフレが発生し続ける金融環境を作り、人々に消費行動を促進させることにより、少子高齢化により活力がなくなってきている日本国経済を成長させよう!!
という意図をもって2%のインフレ目標を掲げているのです。
インフレが先?経済成長が先?ニワトリ卵問題
先程の話では日銀はインフレを起こすことにより、消費行動を促し、結果的に経済成長を引き起こすと申し上げました。
本来インフレというものは経済成長によって引き起こされるものなのです。
実際以下の主要国のインフレ率が、成長率が落ち着くにしたがってインフレも下落しています。
日本は更に顕著で成長を殆どしておらず、寧ろデフレの時代が続きました。
成長は主に国内消費つまり企業や国民の消費活動が主要ドライバーとなって発生します。
人が増え、賃金が増えれば、今よりもっとモノが欲しくなりますよね。
給料が20万円から30万円に増えれば、買えるものが増えるので需要が増幅するのです。
人口が増えて更に給与水準が高まることにより購買力が高まり、結果的にモノの値段があがっていく(=インフレ)が発生するのです。
モノの価格は需要と供給によって決まるので、欲しい人が多ければ多いほど価格が上昇するのは理解頂けるかと思います。
健全な成長を行っている経済では、そもそも金融政策の力など借りずに自然とインフレが発生するのです。
では逆にインフレを発生させることにより、成長を引き起こすことが出来るのか?
これは現在実験の段階ともいえる試みで、インフレドリブンの成長が起こるのかどうかは今後の観察が必要になってきます。
インフレを発生させる財政的な意味
実はインフレを発生させる目的は経済成長を促すこと以外にもう一つ理由があります。
インフレとはモノの価値が上昇することですが、言い換えれば日本円の価値が相対的にモノに対して下落することを意味します。
お金の価値が下がるということは、日本政府が担っている借金の価値が減少することを意味します。
現在の日本の借金は税収だけで返済していくことは最早不可能なレベルに来ています。
現在の日本の借金は1400兆円です。
しかし、歳出102兆円のうち、税収で賄えているのは僅か53兆円しかありません。
経済成長をさせて税収を上昇させたところで解決できる水準ではありません。
そこで、奥の手としてインフレという仕組みを用いて、お金の価値を下げて実質的に政府の借金を減額しようという意図が間違いなくあります。
むしろ、インフレを発生させる以外で現在の日本政府の財政状況を救うことは出来ません。
かといって強烈なインフレを起こしてしまっては国民生活が困窮します。
国民の負担とならないように出来うる限り緩やかに、年率2%程度のインフレを発生させることによって、経済成長と財政救済の二兎を追おうというのが現在の日本銀行による金融政策なのです。
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